通信教育部の皆さんへ


 2000年7月14日にラジオ短波「三色旗 慶應の時間」で放送した「コンピューターを利用したドイツ語学習法」の内容をテープ起こしして,『三色旗』2001年5月号の原稿としたものをここに掲載します。また,放送時のメモもここに公開します。放送はこのメモを基に行われましたが,時間の関係ですべての項目に触れることはできませんでした。参考にしていただけたら,と思います。

 その他,放送中に触れた Web Site のアドレスも掲示します。

 


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コンピューターを活用した外国語学習法

日本短波放送「三色旗 慶應の時間」
第二回 平成12年7月14日放送

「コンピューターを利用したドイツ語学習法」

境  一 三

 テーマは「コンピューターを利用したドイツ語学習法」でございますけれども、まずはインターネットの発達と、その学習への応用ということを中心にお話していきたいと思います。

 皆様は通信教育部の学生さんですけれども、皆様が受けていらっしゃるような通信教育、または遠隔教育というものが、現在アメリカ合衆国、カナダなどの北米や、ヨーロッパを中心としてさまざまな形で見直しが行われています。インターネットがこれほど発達してきますと、さまざまな可能性が学習に、教育に出てまいりました。その観点から、通信教育、遠隔教育というものの見直しが行われているわけです。

 現在まで通信教育では、印刷教材と、それからラジオ、テレビを用いた教育が行われてきましたけれども、それと現在だんだん盛んになりつつありますインターネットを用いた教育とどういう違いがあるかということを、まずお話したいと思います。

 私が今皆さんにお話しておりますのはラジオで、ラジオというのは音を伝えるものです。音は非常によく伝わるわけですけれども、残念ながら画像、静止画や動画、文字を皆様に直接お届けすることはできません。それに対してテレビという媒体では、音に加えて画像、今申し上げたような静止画とか動画が伝達されるわけです。このように媒体、すなわちメディアのチャンネルが多くなればなるほど、伝えたいものの姿が多角的に表現できて、そしてよりリアルに伝えることができる、というふうに一般的に考えられるわけです。

 それでは、インターネットがどのような特徴をもっているかを考えてみましょう。インターネットというのは皆さんご承知のように、皆さんの会社にあるLAN(local area network)や、学校にあるLAN、それからWAN(wide area network)と言われているものが相互に結び付いて、世界全体を覆うようになったネットワークのネットワークです。そこでは現在までさまざまな技術が開発されてまいりました。しかしここでは、その中で特に重要な電子メールと、それからWWW(World Wide Web)、いわゆる皆様がホームページと言っているものですけれども、その二つの技術の可能性に限定してお話をしたいと思います。

 電子メールというのは、第一義的に文字を送るものです。現在では皆さんがお使いのように、さまざまな添付書類で画像ファイルとか音声ファイル、こういったものも送ることができますけれども、基本的には文字情報を送る、そういった媒体です。

 それではいわゆるWWW、短くウェブとかホームページということが多いわけですけれども、こういったものの特徴はどういうことかと申しますと、このホームページも基本的には文字情報です。しかしながら、その文字情報が載っている画面に、同時に画像を載せたり、それから音声を流したりすることができる、つまりマルチメディアな環境になっているわけです。この点でテレビと非常に近いわけですけれども、テレビと違うのは、テレビは画面に表示された文字を、受け取った視聴者がそのままでは加工することができないわけです。文字がどんどん流れてきますし、それを自分の手元にそのままの形では記録することができません。もちろんビデオテープを使えばいいわけですけれども、それはそのまま手元に文字として残るわけではありません。ところがホームページの文字情報は見ている人たちがそれをダウンロードして保存でき、それをさらに自分の手元のパソコンにあるワープロで加工するといったことができるわけです。

 一例を考えてみましょう、例えば皆さんがテレビで料理番組を見ているとします。そこにレシピが表示されます。小麦粉が何グラム、塩が何グラムというようなレシピが表示されているわけですが、そのままでは自分の手元に残らないので、皆様は大急ぎで紙をとってきて、そこに手書きでメモをします。パソコンの得意な人ならば、そして身近なところにパソコンがあるならば、そこで大急ぎで打ち込みます、そういう必要があるわけです。ところがホームページでレシピが表示されれば、それをそのままダウンロードして保存しておくことができますし、ワープロできれいに整理しようと思ったら、それをコピーして張り付けるだけで、簡単にきれいな文章を作ることができるわけです。つまりテレビというのは重要な情報の共有化の手段でありますけれども、ホームページに情報が載ることによって、より積極的な意味で情報の共有化と、すこしくだけた言い方ですけれども、情報の使い回しというものが可能になるわけです。

 さて、今まで申し上げましたことは、情報の受容という受け身の点ですけれども、コンピューターを使った通信では、発信者から受信者が一方的に受け取るだけではなくて、その受け取った情報に対して受信者側が今度は発信する、つまり返事を返すということが可能になるわけです。これを「双方向性」というふうに言います。インターネットの双方向性というのは、教育の場において非常に重要な意味をもつと思います。

 双方向性というものは、必ずしも同時性を意味しません。と申しますのも、情報を発信する人が二四時間コンピューターの前に張りついていて、誰か返事を返してくるかなというふうに、いわゆるウォッチしているわけではないわけです。しかしながら、例えばホームページにある掲示板に、情報を見た人、聞いた人が何か意見を書き込む、質問を書き込むというと、若干の時間のずれはあるにしろ、発信者側でそれを見ることができるわけです。そしてそれに対して返事を書くことができる、そのような意味で緩やかな同時性をもった情報のやり取りができるというのが、インターネットを使った情報のやり取りの特徴であると思います。

 今私はすでに、掲示板というものについて触れました。つまり情報を見た人、聞いた人、受け取った人が、自分の意見なり、感想なり、そして質問なりをホームページに書き込むことができる、そういったものを一般的に掲示板というふうに言います。これを私たちの教育の現場で考えてみますと、どういうことになるかということですが、例えば皆さんは印刷教材で勉強されています、そこで何か質問が起きた、疑問が起きたといったときに、一つは電子メールで先生に問い合わせるということが可能です。そしてもう一つは、ウェブのホームページのこのような掲示板に質問を書き込むというようなことが可能です。さらに言うならば、印刷教材だけではなくて、仮に教材すべてがホームページに載っている場合を想定しますと、そのホームページを見ながらずうっと学習をし、そしてそれに対して起こった疑問、質問、意見などを書き込むということが可能なわけです。

 それでは掲示板を使った場合と、電子メールでのやり取りの違いはどこに出てくるかと申しますと、電子メールで先生に質問をするとなると、それは質問者と先生の間だけで情報のやり取りが行われるということです。それに対して掲示板は基本的に公開を前提としておりますので、質問者が書き込んだ質問は、同時にすべての人に見てもらうことができますし、それに対して先生がお答えになったものも、そのウェブのサイトを見ているすべての人に共有してもらうことができるといった公開性というものが、掲示板の重要な特徴であると思います。

 このような電子メールを使った先生とのやり取り、それから掲示板を使ったやり取りというのは、通信教育部でも一部で実験が行われておりますけれども、本格稼動はまだ先のようです。私どもがふだん相手にしております通学課程の学生さんに対しても、一部の先生がすでにこういったことを実験なさっています。私も一年生、二年生の学習者用に掲示板を開いております。そのことについては後程申し上げます。

 さて、多くの場合、そのような掲示板で集まった質問、情報というものは、非常に多くの学習者が疑問にもつことが多いのです。Aさんという人が出した質問は、Bさん、Cさん、Dさんという人もやはり疑問に思っているということが多いわけです。そのような典型的な疑問というものは、今度はコンピューターの中の特定のところにどんどん溜め込んでおく、そしてそれを公開するれば、いろいろな方の役に立つわけです。こういったものをアーカイブ(文庫)というふうに言います。この典型的な質問例と答えを文庫化しておくことによって、今度は学習者が予めその文庫を覗いておくことによって、自分が抱いていた疑問を解くことができるかもしれない、さらにそこでも解くことができなかったものを、掲示板で新たに質問する、そういった作業が可能になってくるわけです。

 さて、今まで申しましたことは、コンピューターを使っているとは言いましても、人間が質問し、それに対して人間が反応を返す、つまり答えを返してくるという例でございました。もう一つは、コンピューターというのはさまざまな計算ができ、文字の処理ができますので、例えば、練習問題などを学生が行って、それに対する答えをすぐコンピューターが返すということも可能になっております。つまり、いわゆるサーバーと言われているコンピューターの側に、ソフトウエアを予めプログラミングしておくことによって、即時に学習者に対して反応を返すことができるということです。

 もう少し具体的に言いますと、例えば皆さんがウェブ上にあるドイツ語の練習問題を解いたとします。一課の練習問題をひととおり解き終わった、よしできたと思ったら、そこにある送信というボタンを押します。そうするとその結果が一瞬のうちにサーバー側に送られます、そしてそのサーバー側では答えが合っているかどうかをチェックして、すぐにその返事を返します。「あなたの点数は何点です。どこが間違いました。正しい答えはこうです」というようなことを返してくる、そういうようなソフトウエアが現実にあります。私どもが今使っているこの種のソフトウエアについては、後でまたお話いたします。

 このようなコンピューター上での練習問題というのは、以前からネットワーク化されていない、いわゆるスタンドアローンのコンピューター環境でいろいろ作られてまいりました。ネットワーク化されていないコンピューター上のドリル(練習問題)の欠点は、問題を変更したり、付け加えたりしたときに、新たに一台、一台に組み込まなければいけないという点です。ですから教室で使う場合を考えてみますと、変更などが非常に不便だということがあります。

ところがネットワーク化された練習問題では、サーバー側の問題にちょっと手を加えるだけでいい、一台、一台の手元のコンピューターでプログラムを変更するということをしないでもいいわけです。こういったことがネットワーク化された練習問題の利点であります。

 それからもう一つ重要な点は、使うソフトウエアがインターネット用のいわゆるウェブ・ブラウザーといわれているものです。具体的に申しますとネットスケープとかインターネットエクスプローラーといったものですけれど、こうしたソフトウエアはいわゆるオペレーティングシステム(OS)と言われる基本ソフトに依存しておりません。これまで作られてきたコンピューター教材ですと、例えばマッキントッシュ用に作ったものはマッキントッシュでしか使えない、ウィンドウズで作ったものはウィンドウズでしか使えないといった不便がございました。現在ではウェブのブラウザー上ですべての練習問題を行うことによって、そういったプラットホームと申しますが、オペレーティングシステムの違いを乗り越えることができたわけです、それが特徴です。もちろん現在でもたくさんのスタンドアローンのコンピューター用の教材が作られていますし、それがCD−ROMに焼かれて市販もされています。これから両方の形でそういった練習問題が広まっていくのではないか、浸透していくのではないかというふうに思います。

 そして重要な点ですが、ウェブに載せた練習問題というのは、どこにいても同じ問題に取り組めるということです。慶應義塾大学の三田キャンパスの中のコンピューターでも、日吉キャンパスでも、藤沢キャンパスでも、そして皆さんのいらっしゃるご自宅のコンピューターでも、全く同じ問題に同じ条件で取り組めるというのが、インターネット上で行われる練習問題の最大の利点であるというふうに思います。

 このように申しますと、皆さんは、では練習問題をやるとき、勉強するときにいつもインターネットにつないでおかなければいけないのではないか、という不安が出てくるかもしれません。しかし必ずしも常につないでいる必要はないのであって、いろいろなやり方が考えられます。大部分の練習問題、教材をCD−ROM化して皆さんがお手元のコンピューターで行う、そしてそれを、練習問題の答え合わせをするときだけインターネットにつなぐ、もしくは質問があるときのみインターネットにつなぐ、そういったような設定ももちろんできるわけです。これからの設定次第ですけれども、皆さんの金銭的な負担がそれほど多くない形で、教材作りができるのではないかと思います。

 さて先程、私どもが実際に日吉キャンパスで使っていますインターネットを使った教材というものにすこし触れましたけれども、それについて若干ご説明したいと思います。

 システムの名前は「ウェブ・エクササイズ」というものです。現在日吉キャンパスの語学視聴覚教育研究室を中心として、マルチメディアに関するさまざまな研究を行っているのですけれども、これはその一環として導入したものです。このソフトはもともと東北学院大学の佐伯啓先生というドイツ語の先生が中心になって開発されたものです。日吉キャンパスではこのシステムを今年度から導入して、授業で使っております。このソフトウエアの特徴は、主に外国語学習用に作られたもので、問題の作成も回答もすべてウェブのブラウザー上で行うというものです。先程お話しましたように、学習者が回答した結果がすぐに採点されて戻ってくる、すぐに採点されて学習者が見ることができるというようなものです。すでに述べましたように、これはネットワーク上の練習問題ですから、教室の中でやっても構いませんし、それから学内のどこのコンピューターからでも、更には皆さんのご自宅からやっても全く同じように練習できるわけです。このような学習ソフトこそ、これからの通信教育に打ってつけのソフトウエアではないかというふうに、私どもは考えています。

 もう一つ、このソフトウエアの特徴として、教員側も同じウェブの画面上で問題を作りますので、学校で作ってもいいですし、それから私どもが家に戻ってから夜中に練習問題を作るといったことも可能なわけです。で、このソフトウエアには自習のモードだけではなくて、CAI(computer-assisted instruction )と言いますけれど、教室の中で教員の指導のもとに学生が練習問題を解くというモードや、それから試験のモードがございます。このCAIや試験のモードに設定しますと、学習者の学習履歴が残ります。簡単に言いますとAという学生さんがある問題に何分間取り組んだのか、何点とったのかということだけではなくて、どの問題で間違えたのかという記録もすべて残るわけです。それからすべての問題に対して間違った答え、誤答も全部記録されますので、どのようなタイプの問題は間違いが多いのかといったこともすべてわかります。これは教員側にとって非常に大きなメリットなわけです。こういう設問は学習者が答えにくいとか、こういった項目は学習者が理解しにくいんだなということが、教員にフィードバックされる、そういったメリットがあります。現在このようなシステムを私どもは導入して、授業の中で実際使ってさまざまな実験を行っております。

 さて、今まで述べましたのは、ドリルとその発展系ですけれども、インターネットにつながった学習環境を考えるうえで、最も重要なことの一つが、オーセンティックな情報とよく申しますけれども、真正な情報、つまり学習者用に改変され、いろいろ編集された情報ではない、生の情報が学習者に届くということがあります。つまり、教室とか皆さんの学んでいる学習環境が、一挙に世界とつながるということが、インターネットを使った学習の大きなメリットだと思います。外国語を学習するときに、われわれが考えがちなのは、いつか使うかもしれないからやっておくというようなことです。そうしますと、今やっていることがあくまでも準備だという感じになるわけですけれど、そうではなくて、インターネットで外国の新聞を読むということがもうすでに行われていますし、電子メールを使って外国の方とやり取りをするということも実践されていて、それはすでに外国語の練習であり実用であるということです。この練習と実用の境目が消失してしまった、それから教室、学習の場が世界とつながってしまったということが、インターネット環境を学習に用いる非常に大きなメリットであり、特徴であるというふうに思います。

 今すこし電子メールのことに話をもってまいりましたけれども、電子メールというのも対象言語の世界、つまりドイツ語を勉強している人であれば、ドイツ語世界と直接結び付く重要な手段であります。これを使って今さまざまなところで学習の実践が行われています。一例だけ挙げますと、ドイツ語圏にボーフム大学というところがございますが、そこで「タンデム・プロジェクト」というものが行われております。どういうものかと言いますと、例えば日本語とドイツ語ですと、日本にいるドイツ語学習者と、ドイツにいる日本語学習者が、メールでお互いに情報交換をする。その際に重要なのは、必ず両言語で記述するということです。これが例えばドイツ語だけで書いてしまいますと、ドイツ語を母語とするドイツ人が圧倒的に有利になってしまいますし、その逆もまたしかりなわけです。両方が学習者であるから、両方の言語でお互いに情報をやり取りすることによって、バランスのとれたやり取りができるというようなことでございます。

 それから生の情報が取れるということでは、さまざまなところに音声ファイルとか、画像ファイルとか、それから文字情報が、それこそ無限にあるわけですけれども、それを学習者が直接見たり聴いたりすることによって、勉強できるということがあるのです。一例を挙げますと、ドイチェ・ヴェレという放送局があります、そこのインターネットのサイトに皆さんがいらっしゃいますと、初級者向けにゆっくりと録音されたニュースの音声ファイルがあります。リアル・オーディオ形式の音声ファイルですけれど、これは学習者にとってとても聴きやすいものです。さらにこれのメリットは、そこにもとの台本も掲示されるということです。したがって学習者はその台本を見ながら、ゆっくりと発音された、しかもアナウンサーが発音していますから、非常にきれいなドイツ語のニュース放送を聴くことができるのです。

 このようなさまざまな可能性が外国語教育にも、特に今私が担当しているドイツ語教育にもあるわけですけれども、皆さんにもこういった可能性を、どんどん活用していただきたいと思います。

 そのほか文法ですとか、ドイツの地誌などについての情報のページもたくさんありますけれども、ここではなかなかお話ししきれませんので、ぜひ私のホームページに来ていただきたいと思います。そこに「通信教育部の学生さん用」という項目を作っておいたので、見てください。URLは、www.hc.keio.ac.jp/skazumi です。そのページを見ていただきますと、皆さんへの情報が書かれています。「便利なリンク集」には、ドイツ語学習に役立つサイトをたくさん集めておきました。さらに先程申しました「ウェブ・エクササイズ」を実際に使ってみたいという方は、私にメールをいただければパスワードをお教えいたします。メールのアドレスは、skazumi @hc.cc.keio.ac.jp です。

 皆さんとインターネット上でお会いできることを楽しみにしております。

〔さかい かずみ 経済学部教授 ドイツ語教育、ドイツ・ロマン主義芸術理論。一九八九年東京大学大学院人文科学研究科独語独文学博士課程単位取得退学。主要著作―「外国語教育に対するハイパーメディア環境の可能性について」(『ドイツ語情報処理研究』9号、一九九七年)〕



 

 

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