ドイツ代表強化について

 いまドイツでは、「自国サッカー低迷」に関するディスカッションが盛んです。たしかに、結果が伴わない場合の、メディアからの強烈な攻撃という背景があるために、若いタレントにチャンスを与えにくく、低年齢層が育ちにくいので、新しいシステムに「トライし難い」ことは確かです。ただそれに対しては、メディアの報道姿勢だけに非を求めるのではなく、コーチ連中も責任の一端を背負わなければならないでしょう。そこでいろいろと議論がされているのです。

 7月にサッカーの国際会議が開かれたのですが、そこでは、ドイツサッカーの低迷ということをはじめさまざまなことが話し合われました。現ドイツ代表監督のエアリッヒ・リーベック、ブンデスリーガを代表するクリストフ・ダウム(この両名ともコーチ連盟の副会長)、それ以外にも、シュティーリケ(現ドイツ代表コーチ)、ルーベッシュ、カルツ、ネッツァーなど往年の名選手や、ユルゲン・コーラーなどの既にコーチライセンスを取得している現役プロ選手など、多くの「著名人」が参加している・・、一昨年のトヨタカップチャンピオン、ボルシア・ドルトムントも、二時間の「トレーニング・ユニット」を披露する・・などなどで、メディア注目度は別格でした。 そのなかの、代表についての部分を取り上げようと思います。

まず、硬直した、伝統に固執するドイツサッカーです。その代表が、「ドイツ的に堅実、確実な守備システム(リベロ付きのスリーバック)」です。 今回の国際会議では、そこのところにも大きくスポットが当てられました。 なにが取り上げられたかと言うと、「堅実、確実なスリーバック(リベロ入り)」と、クリエイティブな能力が求められる「ライン・ディフェンス(ラインフォー、ラインスリー)」の比較です。

 スペインのバルセロナで行われたチャンピオンズリーグの決勝、マンチェスター・ユナイテッド対バイエルン・ミュンヘンの試合でも、ドイツ的なスリーバック(前気味のリベロ=この試合ではマテウス)の堅実さが証明されたわけですが、それでも、堅実さだけでは将来につながりません。もっと選手のクリエイティビティーを伸ばせるようなシステム的な工夫が必要なのです。 もちろんドイツのコーチ連中も、そのことは十二分に分かっています。それでも、影響力の大きなプロリーグの場での新しい守備システムへのトライには、それ相応の勇気が要るのです。二三試合負け続けたら、すぐにメディアの攻撃対象になり、コーチのイスまで失いかねないでしょう。

 ただドイツでも、さまざまな「変化・進化」への模索がなされるようになっています。 その一つが、シュツットガルトの監督、ラルフ・ラングニックがトライしている「守備の発想」です。それは「ボールの動きをターゲットにする守備プレー(ボール・オリエンテッド・ディフェンス)」。 基本的には、自らがオフサイドラインをコントロールする「ライン・ディフェンス(フラット・フォー)」。その前の四人から五人の中盤も、フラットなラインを基調にします。そして、相手のボールの動きをしっかりと見定め、『次のボールの動き』にターゲットを絞り込んで(予測して)、パスを受けた相手だけではなく、その周りに対しても「必要・十分」なプレスをかけて(ボールホルダーへのプレス状態の見極めが重要!!)ボールを奪い返し、一気に相手ゴールへ、というような「システム(チーム戦術)」です。 でもこのシステムは難しい。また「レベルを超えた積極性」「集中力」「勇気」などが必要です。チーム内に「ヨシ! イケルぞ・・」ってな雰囲気が出てくるまでは苦労の連続でしょう。もしかしたら、シュツットガルトは、このシステムで負け続けるかもしれません。そうなったら・・

 なんとかドイツにも「新しいトライに対し時間を与え」たり、「若いタレントにチャンスを与える」余裕ができればいいんですがなかなかうまくいきません。とにかく「結果に対するプレッシャー」は、もうすごいものです。だからどうしても「実践」では、従来の(守備)システムで戦ったり、将来のある若手よりも「実績のある外国人やベテラン」ってな具合になってしまいます。 メディアも含む「サッカー産業」全体が、共通のコンセンサスをベースに、新しいことにトライする「スペース」を作り出さなければ・・。ドイツには、、ドイツコーチ連盟の国際会議など、それを可能にする「システマチック構造」が整備されているのですが、うまくいきません。

また、国際会議でのドイツ代表監督エアリッヒ・リーベックさんの代表のこれからについて2点ありました。 一つは、代表チームに若手を多く入れることで、将来に備えるのがいい・・という議論はあるが、ドイツの国際的な名声の維持、経済的な背景などを考慮すれば、やはり、「若手とベテランの理想的な融合」をはかるほうが現実的だ。つまり、まず勝つことを考え、マテウス、ヴェルンス、エッフェンベルクなどのベテランも必要・・ということです。

もう一つが、「オランダやフランスなど、様々な人種が混ざった代表チームの活躍が目立つが・・ドイツは・・」という参加者の質問に対し、「国籍の根拠は、母国語、成長過程などの文化背景が主だから、例えば、ドイツで生まれ育ったトルコ人を(帰化さえ問題なければ)代表チームに迎え入れるのには何の問題もない・・」。というものでした。確かにこの問題は大きい。日本の場合だって、ブラジル人のラモスが入って強くなったし、いろいろと考え方はあるだろうが他国がそうしている限り、帰化選手を有効に使うようにしても良いのではないでしょうか。

参考 : http://www.axisinc.co.jp/yuasa.html